【台風15号・19号 千葉支援】被災から1年、被災者がPBVと歩んだ軌跡 後編

2019年の台風15号・19号からまもなく1年が経過します。前編に引き続き、自身も被災したPBV現地スタッフが当時を振り返ります。

 

来る日も来る日も被災した住家を訪れ、屋根にのぼりブルーシート展張を続けて3ヵ月ほどが過ぎた頃。対応したほとんどの被災宅は、かなり築年数が経過し、屋根の下地がすでに老朽化していることに気づきました。そして住んでいる方の大半が高齢者でした。海沿いは、漁師町で敷地面積が狭く密集するように家が建てられています。敷地面積いっぱいに家を建て、3階建てに近い高さの家もあります。以前は、海に遊びに訪れていた観光客のために民宿を営んでいたというお宅も多くあります。一方山沿いは、農家と酪農、林業などを兼業する方が多く、敷地面積が広く、民家は山間部に点在しています。山間部には、茅葺き屋根に板金をかぶせた家が多いのも特徴的です。母屋よりも大きな納屋には大きな農機具が置かれ、牛のいない牛舎には使われなくなった機具が置かれています。

台風により甚大な被害をうけた家屋を補修するためには、多くの資金が必要です。行政から受けられる補助の額だけでは、住民さんが所有している全ての屋根をふきかえることは不可能でした。高齢の住民の多くは住み慣れた家から離れず、雨漏りのする屋根の下で暮し続けることを選択しています。住み慣れた土地を離れる選択は簡単にはできません。自然災害は、その地域にある高齢化社会の問題点も炙り出していきました。

 

 

 

ある時期から、被災地での住民さんからの要望が、新規でのブルーシート展張から劣化したシート張替えに変化していきました。発災後、ブルーシート展張は屋根の本施工が始まるまでの仮養生として、PBV以外にも多くの外部支援団体や自衛隊などによって、すすめられてきました。しかし、工務店に依頼が殺到している状況が続き、その順番を待っている間に張ったブルーシートが劣化していきました。当然のように、ブルーシートを土嚢でおさえているだけの工法では、台風でなくても日々の風で土嚢がずれてシートはばたつきはじめ、すり切れていきました。当時被災地では、工務店などの専門業者にブルーシート展張を依頼すると大体一回につき5万円以上の費用がかかり、なおかつ、剥がれた際の張り直しの対応はしない、というのが一般的な状況でした。資金面で厳しい状況に立たされている住民さんに寄り添い、ブルーシート展張の地元ボランティアを育成しなければと感じるようになりました。

 

 

 

災害救助法にもとづいて、行政は罹災証明で半壊以上の判定をうけた被災住家を公費で解体・撤去をおこないます。そのため、発災直後はブルーシートで仮養生し、家を修理して引き続き住みたいという意志があった住民さんでも、時間が経つにつれ、修理費用と今後の人生を考えて「解体」という選択肢を選びはじめました。この災害で修繕の依頼は千葉県だけで8万件を超えており、1年待っても修繕ができない住家が多くありました。

業者を待っている間に、破損した屋根や壁が雨風にさらされ、雨漏りで家の内側に水が染みはじめます。水を含んだ状態が続き、家屋全体の傷みが進み、破損直後の状況から悪化して修理費用もどんどん膨らんでいきます。こうした悪循環から、罹災証明で半壊認定に満たない家屋でも、公費解体を選択していく方も増えていきました。そうなると、増えていくのが「空き家」です。千葉県の公費解体件数が増えるにつれ、解体業者の対応を待つ家が「空き家」となり放置されていきました。台風で傷んだ家屋はもろくなっているため、また強い風が吹くと飛来物の原因にもなり、事故につながる可能性もあります。

台風で甚大な被害をうけた鋸南町では、鋸南町ボランティアセンターに、「解体までの間に飛来物防止対応をしてほしい」という住民さんからの依頼が増えてきています。2020年7月に8件、8月にも8件と一定数の要望がありました。新たな課題を抱え、復旧までの支援のあり方を考えさせられる局面になってきています。

 

 

 

ブルーシート展張を続けていると住民さんから「経済的な理由で屋根の修繕をできずにいる人もいる」というお話を伺うようになりました。修繕ができないということは、仮養生のブルーシート屋根で暮らし続けることになります。なぜこの選択をするかというと、一番大きな問題は費用面です。業者に屋根の修繕を依頼した際に、支援金でまかなえない不足分は自己負担が発生します。自己負担分が用意できなければ家屋の修繕を断念せざるおえない状況なのです。そのため、経済的な理由で修繕ができない被災家屋へは、ブルーシートの張替えが必要になっていきます。

PBVでは、経済的な理由で修繕できない被災家屋に対して、今後も住み続ける意志が強い住家に関しては、通常のブルーシート展張ではなく、強度を考慮した特別な工法で対応しています。被災から1年が経過した現在でも、ブルーシート展張の要望は続いています。毎年の台風を考えると、外部団体に頼る災害支援ではなく、地元の中で行える災害対応の必要性を実感しました。

 

 

 

地元で行える災害対応の必要性を感じ、2020年5月末よりジャパン・プラットフォーム(JPF)およびCenter for Disaster Philanthropyの 協力を得て、千葉県内でのブルーシート展張担い手を増やすための育成プログラムを開始しました。この活動は日々のブルーシート展張活動と並行して続けています。

この1年間、ブルーシート展張をしているなかで、住民さんからさまざまな当時の様子を伺いました。寝ていたら天井が飛ばされたり、家の中で傘を差して耐え忍んだり、そんな突然の災害で奪われたものは大きく、被災から1年が経過してもその爪痕が消えることはありません。房総半島で生きていくかぎり、日々変化する環境とどうにか折り合いをつけながら生きていくほかありません。PBVは、それぞれの営みを続けている住民さんに寄り添い、これからも支援活動を続けていきます。

多くの方々からご支援を頂いたおかげで、1年間支援を続けていくことができました。本当にありがとうございます。今後も、住民さんが元の生活を取り戻すまで支援を続けていけるように、皆さまの暖かいご支援のご協力をよろしくお願いいたします。

 

 

◆台風15号・19号被害 緊急支援募金

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