2021年8月豪雨災害【インタビュー・一期一会 ③】「水害が多発しても大町町で暮らしたい」 〜ひじり学園ALT教師・トーマス・ハート先生~

佐賀県大町町での出会いのインタビューシリーズ第3弾は、大町町唯一の小中学校、ひじり学園でALT(Assistant Language Teacher)として働いているトーマス・ハート先生です。来日して8年目で、とっても日本語が流暢で子どもたちに大人気の先生です。

アメリカのニュージャージー出身のトーマス先生。もともと言語学に興味があり、最初のバイト先は中国人が営業している中華屋さんでした。そこで漢字を学び、中国語を少しだけ話せるようになったそうです。
「欧米の文字に飽きてしまった」という15歳から日本語の勉強をし始め、学校でも日本語の授業を取っていました。日本語のほかに、長い間スペイン語の勉強もしてこられたと話す先生から、言語に対する情熱を感じました。

日本に来ることになったきっかけは、大学時代の留学です。トーマス先生の大学では、卒業までに1学期分留学するカリキュラムがあり、そのときに関西の大学に留学しました。このとき、日本の生活に魅了され、いつか日本で住みたいと思っていたそうです。

2014年7月から「語学指導等を行う外国青年招致事業」(JETプログラム)を通じて佐賀県大町町に派遣され、保育園から中学生までの英語指導を担当しています。大町町にはたまたま派遣されたそうで、町自体にバスも電車の運行も少ない環境なので、「車が必要な生活は不便じゃないか?」と友達に言われましたが、「ここは自転車でどこでも行けるから」とご自身の生活リズムにあった環境だったようです。普段のお休みはお庭でお花を育てたりしながら過ごしているます。

大町町のひじり学園では8年間も教えているので、子どもたちの成長を頼もしく思っています。「顔が似ている子どもはすぐに教え子の兄弟とわかるのがいいところだ」と仰っていました。

自宅は2年前の水害でも被災しており、その時には床上20cmくらいの浸水被害を受けました。公民館に避難し、2日後には自宅に戻れたそうです。部屋の畳は全て水に浸かってしまったため、新しくフローリングに張り替えました。ようやく生活が元に戻ってきたタイミングで2度目の被災となってしまいました。

       

今回の水害では、特に豪雨が酷かった8月14日の夜に玄関まで浸かってしまい、2年前の出来事が思い出されたそうです。「これはヤバイかもしれない」と思い、電化製品などをなるべく高い位置にあげ、窓から逃げ、避難所に向かいました。高い位置に移動したから大丈夫だろうと思っていましたが、実際には床上80cmまで浸水し、ほぼ全ての家電製品が壊れてしまいました。PBVからは支援のマッチングを行い、地球市民の会さまから冷蔵庫のご支援をいただき、届けることができました。今後も要望にあった電化製品を探していきます。

前回よりも被害がひどかったため、避難所で2週間くらい生活をしていました。集団生活は大学の寮で経験しているので、大丈夫だろうと思っていましたが、高齢の方も多く避難していたので、生活リズムの違いにしんどさを感じていました。ですが、「全然知らない住民なのに、お弁当や物資のお知らせをしてくれ、仲良くなれたことはよかったことだ」と振り返っていました。

トーマス先生は、たとえバスや電車の少なさといった交通手段などの多少の不便さはあっても、自分の生活リズムにあった営みを送るれる大町町のことが大好きです。これまで近所の方ともそこまで深い交流があったわけでもないと思っていたけれど、被災後「何か家の掃除で手伝うことはある?」「代わりにお買い物行こうか?」など気さくに話しかけてくれたそうで、大町町の温かさを改めて感じることができました。

JETで派遣された先生たちは1年2年で入れ替わることが多く、長い間同じ場所にいれることのほうが珍しいようです。「こんなに長く大町町にいさせてくれて嬉しい」と、笑顔をこぼしていました。

被災地には多様なルーツやバックグラウンドを持った住民の方々がいらっしゃいます。どんな言語でコミュニケーションをする時も、トーマス先生と近所の住民さんのやりとりのように、相手を尊重する気持ちが大切だと改めて感じました。水害が多発している大町町ですが、「今後出来るかぎり大町町で暮らしていきたい」というトーマス先生のぶれない信念がとても印象的でした。