【石巻】 記者ボランティアの活動レポート

7月から約1ヶ月間、「記者ボランティア」として石巻で活動した川口穣さんが、その体験や感想をレポートにまとめてくれました。震災から立ち上がろうとする石巻での出会いと葛藤・・・。ぜひ、お読みください。

 

記者ボランティアとして活動して

2012年7月16日から、8月19日まで。僕は、約1ヶ月の日程で、「仮設きずな新聞」の記者ボランティアとして活動した。取材対象は 様々。街中にある店舗や施設のこともあれば、仮設住宅で行われているイベントや取り組みであることもあるし、人そのものに焦点を当てることもある。
だが、取材対象が何であれ、記者の仕事の根底は人と会うことだ。それは、否が応でも現実を知ることになる。

2011年3月11日、「大震災発生」の報を受けたとき、僕がいたのは遠い異国の地だった。そして、帰国したのは今年の6月のこと。だから僕は、 「3・11」を直接体験していないだけでなく、その後の日本を包み込んだ「空気」にも、一切触れていない。僕が触れていたものといえば、インターネットか ら垂れ流される、真偽のほども定かではないような有象無象の「情報」と、センセーショナルに煽りたてる海外放送局のテレビ番組だけ。電気のない暗い夜と共 に辺りを包んだ絶望感も、瓦礫の山が突きつけてくる喪失感も、冬を越えて萌える緑のような小さな希望も、僕は知らない。
もちろん、あの震災が、「人ごと」であった訳ではない。震災以来、当時僕が滞在していた現地の人からは、数え切れないほどの励ましの言葉、家族を案ずる言 葉をかけられた。彼らにとっては、僕こそが震災の当事者であり、だからこそ僕は、震災を、ある程度までは自分の問題としてとらえることができた。
それでも、震災をリアリティのある目の前の出来事と感じるには、少し距離があったのも事実だ。
毎日記号のように増えていく死者数にも、インターネットを通して見る衝撃的な写真や映像にも寒気がしたが、もっと怖かったのは、それが、どこか遠い世界の出来事のように感じられたことだった。

でも、石巻へ来て、震災が現実のことだったと改めて感じるのに、時間はかからなかった。それを知ったのは何も、積み上げられた瓦礫や、骨組みだけ残 された家からだけではない。涙をこらえながら、一挺の灯篭に母への想いを託す女の子。かつて住んでいた家の写真を取り出し、思い出を語る仮設団地のおじい さん。そんな人々に接する度、現実に打ちのめされそうになり、次の言葉が見つからなくなった。
一方で、この街に暮らす人は皆、前を向いていた。
冒頭にも書いたけれど、記者の活動は、人と会うことに尽きる。1ヶ月という短い期間でも、僕はこの街で多くの人に出会った。被災を乗り越え、1年ぶりに営 業を再開した商店主、仮設住宅で新たなコミュニティづくりに奔走する人、地域活性のためのイベントを仕掛ける人。語られる言葉は様々でも、故郷・石巻への 想いは言葉の端々から感じられた。そんな、前を向いて語る人に会うたび、僕は石巻という街、そして、この街に暮らす人々の強さを見た。
また、震災後に石巻へやって来て、この街に根を張ることを決めた人々も大勢いた。ボランティアとして石巻で活動するうち、「被災地」としてではない、石巻 が持つ魅力に惹かれた人たちだ。彼らは、時として「よそ者」であるという葛藤に悩みながらも、自らの持つ技術と情熱で、この街の未来を描いている。

記者ボランティアとしての僕の仕事は、そんな彼らの姿を追い、記事にまとめて発信すること。何度も書いたように、人と会うことが根幹にあるが、それ だけではない。取材の後にも、長い長い作業が待っている。取材音源を文字に起こし、それを読み込んだ上で、限られた字数の記事にまとめる。時には、言い回 し一つで小一時間悩むこともある。伝えたいことの多さと、スペースの小ささで悩むのはもはや、恒例行事だ。
でも、伝えきれないほど伝えたいことに溢れているのは、石巻の魅力であり、力だと僕は思う。

「未来は、創るもの」。様々な場で語り尽くされた言葉だが、石巻には、今まさに未来を創っている人たちがいる。5年後、10年後のこの街を見てみた いと思わせてくれる力が、確かにあった。それを一番近くで感じられたことが、記者ボランティアとしての活動の、一番の成果だろう。そして、それを伝えるこ とは、記者に託された役割の一つでもある。
次にこの街へ来られるのが、いつになるかはまだ分からない。それでも、また会いたいと思わせてくれる人、伝えたいと思わせてくれることが、石巻には、溢れていた。

(文:川口穣)

取材させてもらった地元の方と(写真左) 撮影:平井慶祐

 

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ピースボート災害ボランティアセンターでは、石巻で長期で活動できる「記者ボランティア」を募集しています。活動内容は「仮設きずな新聞」の記事の執筆、「石巻魅力発信プロジェクト」の企画運営、その他情報発信に関わる様々な活動になります。
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