ピースボート災害支援センター(PBV)は、大規模軍事侵攻が始まって以降、隣国ルーマニアやウクライナで活動する複数のNGOを通じて様々な人道支援を行ってきました。
◆ルーマニアにて
・避難民支援センターの運営支援
・法律・定住支援
・がん患者の転院・定住支援
◆ウクライナにて
・各地の病院への医薬品の提供
・避難所等への日用品等の提供
・厳冬期の食料支援

攻撃から3年以上が経過した今、多くのウクライナ国民への長期にわたる身体的・心理的な支援の必要性がこれまで以上に緊急の課題となっています。
回復とは、身体的な治療にとどまらず社会的、心理的、文化的なものです。
PBVは、攻撃によって負傷した人々の回復のためにリハビリテーションが重要であると認識し、国内避難民(IDP)を含めた住民の医療を支えている「UNBROKEN*(アンブロークン)」を主導するリヴィウ第一医療連合(First Medical Union)に対し、日本で開発された歩行のためのリハビリ補助ロボット「RE-Gait*(リゲイト)」を2台寄付。2025年4月には、操作方法の実地研修のため、ウクライナから医師を日本に招聘しました。
*RE-Gaitとは…
広島大学大学院医系科学研究科の弓削類教授と早稲田大学が共同で開発した歩行支援装置。リハビリ時に足首や腰に装着するロボットで、足関節の背屈・底屈をリアルタイムに電動補助します。脳の損傷などで歩行困難になった患者が、RE-Gaitを装着して1回20分程度の歩行訓練を繰り返し行うことで、歩行能力を回復させることができます。

【プロジェクト概要】
UNBROKEN× ピースボート災害支援センター(PBV)-協力プロジェクト
期間:2024年11月 – 2025年4月
目的:日本の歩行支援ロボットRE-Gaitを使用し、ウクライナの戦争被害者のリハビリテーション支援を実施する。短期間での歩行機能回復の実現を通じて、患者さんの早期社会復帰を支援する。
パートナー:UNBROKEN国立リハビリテーションセンター(リヴィウ/ウクライナ)
UNBROKENとPBV
2022年2月以降のウクライナ大規模攻撃の開始以来、UNBROKENでは 2万人を超えるウクライナの負傷者(子どもを含む)が治療を受けています。
UNBROKENによる医療提供
UNBROKENは、ウクライナのリヴィウで外科治療、リハビリ、義肢製造、心理ケア、小児医療などを提供する総合的な医療プロジェクトです。国立リハビリテーションセンターにて、以下の包括的なサービスを提供しています。
・緊急医療ケア
・再建手術
・整形外科と義肢装具
・身体的、心理的、および心理社会的リハビリテーション
ウクライナ最大の医療機関であるThe First Medical Union of Lvivを基盤としており、20を超えるプロジェクトが連携する人的支援ネットワークとして、治療、義肢装具の製造・装着、身体的・心理的リハビリテーション、住宅支援、社会復帰支援など、多様なサービスを無料で提供しています。


写真提供:UNBROKEN
◆国立リハビリテーションセンターにおけるリハビリ
身体や四肢の重傷は、複雑なリハビリテーションを必要とします。患者が生活に戻り、可能な限り自立できるように、必要なすべてのツールを提供することが最低限の任務です。そのために、理学療法医、理学療法士、作業療法士、言語療法士など、数十人の専門家が患者に関わっています。また、回復のために心理学者や心理療法士とも協力しています。
トレーニングは、最新設備を備えた近代的なリハビリテーション室で行われ、特にロボット歩行システムや外骨格が活用されています。当センターのチームに所属する外科医、外傷専門医、その他の専門家との協力、および必要な診断機器をすべて利用することができます。

写真提供:UNBROKEN
活動報告~日本での研修~
広島での研修(2025年4月2~3日)
PBVはUNBROKEN所属の理学療法士リュボフ・コロシンスカ医師を招聘し、広島で研修プログラム(施設訪問・実地研修・日本人専門家と意見交換)を実施しました。
初日、コロシンスカ医師は広島市中心部にある、RE-Gaitを導入しているリハビリテーション・クリニックを訪問。RE-Gaitの基本的な機能の説明を受けた後、医師自身の脚に装着し動作確認を行いました。
RE-Gaitは患者の状況にあわせて機能の選択や調整が可能なため、さまざまなモードを試し、リハビリ治療を受ける患者と同じ歩行訓練を体験しました。また、PBVのスタッフにRE-Gaitを装着してタブレットによる操作方法を習得しました。

一方で、医師からはUNBROKENでの研究成果を共有し、ウクライナにおける医療の現状を説明。現代的なリハビリテーションツールと国際的な支援の重要性を強調しました。
終了後は広島平和資料館と平和記念公園を訪問。被爆者から直接被爆体験を聞き、平和のメッセージを世界に伝える被爆者の証言活動を学ぶ機会にも恵まれました。
2日目は福山市内の脳卒中専門病院へ。この病院では、患者が歩行機能をとり戻して日常生活を再開するために必要な幅広いリハビリ治療とサポートを提供しています。
脳卒中の患者1名の協力を得て、RE-Gaitを使った歩行訓練を行いました。その様子を分析し、理学療法士と話し合いながらRE-Gaitの最適なモードを選択するという実践に近い研修です。患者からは2年間に渡るRE-Gaitを活用したリハビリ治療の体験談を聞き、理学療法士と患者それぞれの視点からRE-Gaitの機能について理解を深めました。

終了後、コロシンスカ医師は病院の職員たちと面会し、UNBROKENプロジェクトとウクライナでの活動について紹介と質疑応答をおこないました。帰り際、ウクライナの現状を知った病院の職員の皆さんから医師に、改めて今回のプロジェクトへの応援のメッセージが伝えられました。
研修終了後:支援者との交流(4月4日~5日)
滞在3日目は大阪を訪れ、プロジェクトを支援する寄付者との会議に出席しました。継続的な支援と連帯への感謝を温かく述べるとともに、戦争下でウクライナの医療体制強化において国際連携が果たす重要な役割を伝えました。
最終日は東京に戻り、UNBROKENを支援する日本の団体の代表者を招き、本プロジェクトに関する詳細を説明する機会を設けました。RE-Gaitと研修成果についてプレゼンと質疑応答を実施し、ウクライナにおけるリハビリテーションの未来に関する見解を共有しました。

活動報告 ~RE-Gaitの納入とリハビリプログラム~
PBVのウクライナ人スタッフはコロンシスカ医師と共にウクライナに渡航し、UNBROKENに2台のRE-Gaitを届けました。訪問中、PBVスタッフは、UNBROKEN医療チームや理学・リハビリテーション医学博士、理学療法士の先生たちと面会し、病院内の理学療法施設やリハビリテーション施設を視察しました。

その後、納入されたRE-Gaitを用いて、実際の患者による初めてのリハビリテーションプログラムが実施されました。以降、2025年9月までで44名の患者がRE-Gaitを使用したセッションに参加し、40名の患者がリハビリテーションコースを完了しました。
これら患者の大多数は、戦争中に脳に損傷を受けたことにより正常な歩行が困難になった人々です。
RE-Gait使用の声
理学療法士からのフィードバック
「非常に効果的で、操作が簡単」
「モードの選択が簡単で、適した患者を特定するための明確な基準があります」
「効率的に機能し、患者一人あたりの治療時間を短縮し、治療成果を向上させています」
「膝痛を軽減し、患者さんは喜んでいます」
患者の声
「回を重ねるほど歩くことが楽になります」
「着脱が簡単で、歩くことが楽しい」
「振動が気に入っています」
「日本製だと知って嬉しい」
「歩行中に足を支えてくれ、楽で快適です」
「膝の痛みがほぼ無くなりました」
注目の事例
ある患者の方は、戦争中に外傷性脳損傷を負い、左半身麻痺の状態でした。リハビリ前は、歩行に杖を頼り、バランスと協調運動に著しい困難を伴っていました。しかし、RE-Gait使用後は杖なしで自立歩行が可能に。歩行パターンは著しく改善され、身体的な自信も向上しています。
近い症状の患者は他にも何人かおり、その多くは自力で歩くことを諦めていました。そのような人々が、現在、目に見える進歩を遂げています。

RE-Gait導入の成果と今後
RE-Gait技術の導入は、UNBROKENにおけるリハビリテーションに新たな可能性を開きました。戦争による障害を抱える人々の数が依然として増加し続けるウクライナにおいて、RE-Gaitのような効果的なツールへのアクセスは、単に有益なだけでなく、不可欠なものとなっています。
ウクライナでの戦争が続くなか、リハビリテーションセンターの継続的な取り組みにより、患者は重要な支援とリハビリサービスを受け続けることができています。しかし、質の高いリハビリテーションへの需要は今後数年でさらに高まる見込みです。
今も、大きな負傷をして帰還する人々が何千人もいます。ウクライナ国内全域にわたり攻撃は絶え間なく続いており、最近は、ハルキウで7月26日に複数の兵器による長期にわたる攻撃が発生しました。リヴィウを含む都市への最近の攻撃では、8月21日の攻撃では1名の死亡、3名の負傷、30戸の住宅被害が発生。キエフでは8月28日の夜4人の子供を含む23名の死亡が確認され、住宅、学校、病院が広範囲に破壊されました。また、9月3日に約15機のドローンが標的となり、危険が継続していることが示されています。
負傷された方々が自立と尊厳を取り戻すために、医療機関への支援とRE-Gaitのような革新的なツールへのアクセスが不可欠です。これまでの進展に勇気づけられ、患者の回復とウクライナにおける恒久的な平和の実現を今後も望んでいます。
UNBROKEN リュボフ・コロシンスカ医師より
「PBVとのパートナーシップは大変価値のあるものでした。PBVが提供した研修とリソースは、私たちの能力を向上させ、患者へのより良いケアを提供できるようになりました。私たちが目指すことは、提供できるサービスを拡大し、必要としているより多くの人々を支援することです。PBVのようなパートナーからの継続的な支援は、この目標を達成するために不可欠です」

