柿の木が、この家の守り神

「この木だけは、どうしても守りたくてね」

 

しみじみとそう語ってくれたのは、石巻市新館に住んでいる阿部まゆみさんです。9台の車が自宅の前にある柿の木に引っかかり、玉突き状態で押しやられていました。それでも、木があったおかげで、自宅は流されず、壁の被害も少なくすみました。まるで、柿の木が家を守ってくれていたかのようです。

津波の影響で、自宅は2メートル以上が浸水しました。育てていた畑やビニールハウスのキュウリもすべて全滅です。流されてきた9台の車の、最初の1台に乗っていた方は、木に飛び移ったおかげで助かったのですが、後続の車に乗っていた方は、そのまま力尽き、亡くなってしまいました。

震災から2ヶ月半たった現在。玉突きの車や瓦礫をようやく取り除き、柿の木の姿があらわれました。ピースボートの泥出しボランティアチームは、阿部家の床下及び、庭の泥出し・泥撤去・瓦礫撤去を行いました。まずは、土を掘り起こしタールのような黒いかたまった泥を取り除きます。

このタールのような泥を取り除かないと、水が土に染み込みません。海水や海のゴミが入り交じった泥土を取り除くと、梅雨で雨が降れば、どうにか土は浄化されて、また実がなるそうです。

今回お手伝いしたのは、インターナショナル・ボランティアチーム。アメリカ・インドネシア・フランス・カナダから集まったメンバー。日本に暮らしていて、実は日本語がペラペラなメンバーもいます。阿部さんの話を聞いたボランティアは、ただの土運びではなく、これがとても意味のある作業だということに気付きました。

タールのような泥
タールのような泥

作業内容は、柿の木の周りをスコップで掘り起こし、泥のついた土を土嚢袋に入れます。だいたいスコップ4かき分で土嚢袋の半分以上が埋まり、あまり重いと運べないので、その容量で一つとし、まとめて一輪車で運びます。一人でやったら気の遠くなるような作業も、ボランティアで一丸となって取り組めば、作業が進みます。

柿の木が芽吹いた
柿の木が芽吹いた

そもそもこの柿の木は、5年前に家を改築した関係で元あった場所から移動されました。掘り起こして移動させた最初の2年間は実が成らず。3年後に芽吹き、4年目にしてようやく実がなりました。5年目の去年は実が成らずに、今年こそはという時に311の震災がありました。「桃栗3年、柿8年」ということわざがあるように、柿は実を結ぶには時間がかかります。それでも今年、柿の木は芽を出し始めました。

この柿の木は、阿部さんのおじいさんの代からあった100年も前の古木です。

阿部さんのお父さんも「あの木を大切にしなさい」と数年前に亡くなる際、遺言を残していました。阿部家にとっては、大切な守り神のような存在なのです。

作業を終えたボランティアのメンバーは、次回は阿部さん家のおいしいキュウリと柿を食べにまた石巻を訪れようと約束して、阿部さんと柿の木に別れを告げました。

阿部さんとボランティアメンバー
阿部さんとボランティアメンバー