【2021年8月豪雨災害・佐賀大町町】現地レポート:あったか美味しい手作りごはんが繋ぐ、地域住民のおなかと心

お盆真っ只中を襲った8月の大雨。水位の高い地域では成人の頭上を越し1階がまるまる水に浸かった場所も少なくありません。浸水によって冷蔵庫やガスコンロ、電子レンジ、炊飯器など毎日の料理に欠かせないキッチンの機具が使えなくなったり、終わりの見えない家屋の清掃や片付けが続く日々にだんだんと疲れもたまり、食事の支度をする気が起きなくなってしまったりなど、水害は被災した方々の食生活にも少なくない影響を及ぼしています。

PBVが支援活動を実施している大町町では、温かく美味しいごはんを届け、被災した住民の方々が少しでも元気になってもらえるように、様々な場所で食事・炊き出し支援が行われています。今回は、現地で炊き出しの支援を行う3つの民間団体をご紹介します。

 

1つ目の団体は、地元で活動する大町町食生活改善推進協議会です。メンバーの方々が、避難生活を送る住民の方々のために、手作りの夕食を作っている所を見学させていただきました。大町町食生活改善推進協議会の方々は、これまでに学校での出前授業や、親子の料理教室など、地域で正しい食生活の普及活動に尽力してきました。

  

「今日のちらし寿司は、目が飛び出るくらい美味しいよ!そんでもって、しっかり栄養満点なのよ~!」
おそろいのピンク色のTシャツとエプロンを身に着けた11人。避難所で食事配布が始まる数時間前から厨房に集い、わいわいとテンポよく言葉を掛け合いながら、テキパキと野菜を刻み、寿司おけの中でご飯を混ぜていきます。

この活動を20年以上続けている、会長の藤井幸子さんにお話を伺いました。

「被災された皆さんが、もとの生活に少しでも早く戻れるように、と願いながら作っています。今おうちで(ご飯を)作れない方々が沢山いらっしゃるから、私達の手作りの料理を食べてもらって、少しでも元気になって頂けたら嬉しいです」

おかずの量が限られていても栄養がしっかり採れるから、とメニューにちらし寿司を選んだそうです。色鮮やかな美味しいごはんと一緒に、被災された住民さんへの想いもたっぷり詰まったパックが、17時頃から避難所のテーブルに並べられ、住民さんの手に届いていきます。

 

続いて、2つ目の団体は、東北関東大震災支援隊本部 BOND&JUSTICEです。(現場では「ボンジャスさん」という愛称で呼ばれていらっしゃいます。)2011年の東日本大震災以来、全国各地で被災地支援を行う、経験・ノウハウの豊富な民間団体です。

 

PBVが常駐し、地域の被災された住民の生活再建をサポートする拠点の一つとなっている大町町・中島区の公民館にて、先日6日の夕方からボンジャスさんの提供による、地区で被災された住民の方々向けの炊き出しがありました。事前に、「親子丼」「鮭しょうがご飯」などのメニューを載せたチラシを地区の班長さん達が届けてくださったり、町内へのマイク放送による呼びかけを行ったりして、当初の予想の倍近くの数の地区住民さん達が、お持ち帰り用のお盆や買い物袋を手に足を運んでくれました。

 

大町町の中でも特に中島区は年齢層が比較的若めの、子ども連れのご家族も多く暮らしています。PBVが公民館に常駐するようになって数週間が経つ中で、初めてお顔をお見かけする世帯も多くいらっしゃいました。被災後、なかなかバランスの取れた食事が出来なかったり、コンビニのお弁当ばかりが続いた住民さんにとっては、とても嬉しい炊き出しだった様子です。炊き出し開始直後からひっきりなしに訪れてくださる住民さん達の手元にお弁当が次々に行き渡り、ボンジャスのメンバーの皆さんも驚いていました。急いで追加のお弁当を作りに厨房へ戻ったりと大忙しでした。温かいカレースープの、食欲をそそる美味しそうな匂いにつられて、子ども達も笑顔でお弁当を受け取っていたのがとても印象的でした。

「美味しくなぁれ、元気になぁれ、と願いをこめて作っています」とお話されていたボンジャスの皆さんの、被災された方々に寄りそう暖かい想いが通じたように、住民さんの中には「何かできることはないか」と手伝いに来てくださる方々もいらっしゃいました。
「被災後何もする気が起きなくて、外に出ることもできなかったけれど、前にお弁当を詰めるボランティアをしていたことがあったので、気分転換にいいかなと思って」と、エプロンを付けて来てくださいました。
「おうちの片付けばかりしていると、だんだん人と話さなっちゃって、また気分が落ちこんじゃうの。だから今日はとっても楽しかった!」と、素敵な笑顔を見せてくださいました。

 

最後に、NPO法人災害支援団Gorillaも大町町で炊き出し支援を実施しています。(現地では「Gorillaさん」と呼ばれていらっしゃいます。)2018年に発災した西日本豪雨で被災した、岡山県真備町で支援活動を始めて以来、全国各地に駆けつけて、被災された方々の食事面から心身のサポートを行う活動に尽力されています。コロナ禍で県域を超えて支援者を派遣するには様々な制約もある中で、「少ない人数でも、被災された方々にバランスの採れた食事を届けたい」という思いで駆けつけてくださいました。

 

中島区と同様にPBVが常駐する、大黒区と恵比須区の方々が多く利用してくださっている、大町町の防災交流拠点「フリースペースPeri.(ペリドット)」にも、事前のチラシ告知などを見て、住民の皆さんが次々に駆けつけてくださいました。

 

「おなまえを教えてください!お弁当はいくつですか?」
浸水した家の復旧を続けながら、日々顔を出してくれるおばあちゃんに連れられて、ペリドットに来てくれるようになった女の子は、炊き出しを実施する日は必ずといっていいほど、元気な声でお弁当の受け渡しの受付を手伝ってくれています。
また、幸いにも浸水被害の無かった隣の町内の区長さんが町内で声をかけて集まってくださった地元の方々も、「何か私たちで力になれることがあれば、何でもお手伝いします」と、盛り付けや配食に力を貸してくださっています。

 

 

あたたかくて美味しい手作りごはんの魅力はとても大きいと感じました。地域の住民さんのおなかが栄養豊富なバランスのいい食事で満たされていきます。加えて、お弁当をお渡しする時に、地区の住民さん同士や、私たち支援者と顔を合わせることで、何気ない会話に顔をほころばせたり、お困りごとの相談で一緒に解決策を考えたり、少しづつまた頑張っていくための元気や安らぎを得られるきっかけが作られています。

 

   

こうした食事支援の実施には、自治体や地元団体を含む中間支援組織、有識者など様々な方の力添えをもとに、コロナ感染対策を加味した炊き出しのガイドラインの作成・策定や、支援の申し出と地域でのニーズとのマッチング(世帯数、炊き出しの実施日時、配食する人員など)など、様々な連携と調整を経て、一つひとつ実施しています。

被災された住民の方々が1日でも早く元の生活が営めるように、引き続き、住民さんや自治体、民間団体の方々とともに、漏れやムラのない心身のサポートを続けていきます。