【連載企画】2019年台風15号・19号 3度目の立冬をむかえた房総半島の今③

千葉の今をお届けする連載企画の2回目は、台風15号が上陸し、発災した当時に、鋸南町役場総務企画課復興支援室室長として災害対応にご尽力された小川亮一さんです。
災害発生時は保健福祉課福祉支援室の室長として勤務をされていた経緯もあり、その際に得た知識と経験は、被災された町民の皆さんへの災害対応にも必要とされた内容だったそうです。

 

―台風が過ぎ去ったあと、鋸南町を見て何を感じましたか?
2年前の台風15号の時、もともと台風が来るのは分かっていましたが、そんなに大きな被害はでないと思っていました。ですが、翌日になって町に出て見ると、電柱が倒れ、電線が垂れ下がっていたり、道路に瓦や木が散乱していたんです。飛んできた屋根が道を覆って車が通れない場所もありました。高齢の町民の方からは「空襲にあったみたいだね」とか「80年以上この町に住んでいるけど、こんなことははじめてだ」という声を聞いて、ただごとではないと感じました。幸いなことに自宅の被害はほとんどありませんでしたが、近所の家では全壊してしまったところもあります。本当に被害の大小は、紙一重だと思いました。

 

※左:鋸南町市井原地区 右:鋸南町竜島地区

―復興支援室の室長を任命されたとき、何を思いましたか?
室長という役職の中ではわたしは一番年下だったので、「自分でいいのかな?もっとベテランの室長がいるのに」と思いました。ただ、鋸南町は小さな町なので、職員間において、気軽にさまざまなことを相談できる環境にありました。また、行政区も近隣市に比べ多くなく、区長さんや民生委員さんに聞けば、そこに住んでいる町民のことを知ることができたので、被災者の状況の把握はしやすい環境だったと思います。とはいえ、とにかくさまざまことを学ばなければいけないと思ったので、災害の法律に関する本をたくさん購入し、とにかく知識をつめ込みました。

―災害時の役場の役割はどういったものでしょうか?
役場としての平時の役割はありますが、それが災害時になっても大きく変わることはないと思います。「町民が幸せに暮らせるように」と願い仕事をするのはいつでも一緒です。役場が災害時にできることってあんまり目に見えることではないですよね。国との支援の交渉や、自治体同士の人員支援などは町民の方からは見えないと思います。町民の方から見れば支援の遅れに感じる部分も多く、不満のはけ口になることも少なくありませんでした。

―災害対応において外部支援者と「協働」について聞かせて下さい。
個人的にはうまくコミュニケーションが取れたと思います。ボランティアさんがわたしたちと同じ目線に立って動いてくれることが多かったです。「これは役場のほうでやってください」と押し付けられることもなく、逆にものすごく配慮して臨んで下さる方が多かったです。2020年からは新型コロナが蔓延していたので、ご飯に行ったりなどはできませんでしたが、お弁当を差し入れたりして会話が弾みました。町民もボランティアさんにはとても感謝の気持ちが強く、「この町のためにがんばろう」という気持ちになってくれたのかなと思います。

―今回の災害対応で葛藤はありましたか?
住家被害としては合計で2,230軒の家屋が罹災されました。今回の住宅被害の支援制度の対象は「住家」と明確な規定があったので、空き家や別荘、アパートの大屋さんには修繕支援補助金などが出ない状態でした。なかなか説明しても分かってもらえないことが多かったです。農業を営んでいるお家も多い中、例えば小屋が壊れても住家被害としては認められません。この町の高齢化率は47%と非常に高いです。中には「自分の葬式代くらいは残したい」「孫におこづかいをあげられなくなる」という思いを抱えつつ、修繕支援の相談に来る方もいました。そんな方々に行政として十分な支援が出来ない状態に歯がゆい思いをしました。

 

※左:鋸南町下佐久間地区 右:農業用ハウス

―災害対応を通じて学んだことは、今後どのように活かされるのでしょうか?
発災後1週間以内に何をやらないといけないのか、2週間後にはどのような移行が必要なのかなど、平時からきちんと備えることが必要です。知識は実践されないと価値がありませんが、今回の災害でそれは実践できました。鋸南町では地域防災計画を策定しておりますが、分厚すぎてほとんどの人間がじっくり読んだことがないと思います。ですが、初動マニュアルは職員個々の役割を明確化してあり、今回の災害の経験を活かして改訂を行っています。初動マニュアルは役場職員全員に配布されており、当時担当した職員の話を参考にして作成されています。どのような災害に対し、自分はどういった対応を即時に行うのか。また、時間の経過によってどのような支援が求められ、どのように対応するのか、などの職員個々の災害に対する心構えが大切だと考えます。

―今後、小川さんが鋸南町のためにしたいことはなんでしょうか?
経験はずっとわたしの中に残っているので、有事に即座に対応できるように、書類として蓄積していきます。このような災害が頻繁に来ることは想定しておりませんが、この経験は、公務員生活において貴重な経験と捉えております。また、災害を通じて、小さな相談事にも対応できることがありました。例えば、台風で「空き家となった隣地から木の枝が自分の家にはみ出してしまった」「瓦や家の部材で自分の家に被害を受けそう」などの相談にどうやって対応するかなど、小さいけれどすぐに解決したい困りごとに対応できる体制を整えたいと考えています。なお当時購入した書籍は残していき、今後の対応の参考にしたいと思っています。

※掲載している被災状況の写真は鋸南町役場からご提供をいただいております。