企業の専門スキルを災害支援に活かす ~IBMプロボノチームと考える次世代育成~

東日本大震災から多くの災害支援活動にご支援を頂いている日本IBMの皆さん。今回は、6月から約半年にわたって、コンサルティング支援を行っていただきました。PBVが現状抱えている諸課題を整理し、より効果的で持続的な災害支援活動を展開できるよう一緒に知恵を絞ってくれました。

 

日本IBMは、常に最先端のITサービスのシステム開発や運用を進め、様々な企業の課題を解決してきました。その社会貢献部門が中心となって、多部署から集まった若手プロボノチームが結成され、非営利セクターの課題解決を目指します。これまで培ってきた専門的な知見と、「日本社会の役に立ちたい」という情熱溢れる温かなIBMプロボノチームと、これまでの災害支援の知見をまとめ、社会や次の世代に残したいと悩むPBVスタッフとの対話が始まりました。

日本IBM本社にて IBMプロボノチームの皆さんと

来年の2021年で、PBVは設立より10周年という節目を迎えようとしています。そんな中、災害支援を担う民間支援団体として、いま、チャレンジングな課題感に包まれています。これまで、全国・海外から駆けつけてくれた災害ボランティア達をはじめ、沢山の方々と数々の災害を一緒に乗り越えながら培ってきた、災害支援活動のノウハウや知見をどのように社会に還元していくのか。「1人の100歩より100人の1歩」という理念のもと、より多くの人たちと共に災害に強い社会づくりを進めていけるよう、どう働きかけるべきなのか。ベテランスタッフの経験や知恵を、どうやって若いスタッフへ引き継いでいけるのか。

スタッフも限られている中で、これまでの知見をいかに最大限活用しながら、災害支援の新しい担い手を育てていけるのか。IBMプロボノチームの皆さんによる丁寧なヒアリングを経て、PBVが今抱えている災害支援における課題の整理と、ITサービスを使った解決案の検討が進められました。

 

災害支援を円滑に進めるための現状課題を出し合い、その解決方法を模索ために、「Design Thinking(デザイン・シンキング)」という手法が取られました。ベテランチームと新人チームに分かれて、それぞれ現場でコーディネートを任されたベテランスタッフと新人スタッフが抱える課題を書き出したり、「こうなったらもっと業務が進めやすくなるなぁ」といったゴール像も自由に文字や絵に起こしたりしながら、課題解決への道筋を模索していきました。

対話が深まるにつれて、PBVスタッフが担う活動は多岐にわたり、他者から見るとその内容が複雑に見えやすいという特異性が明らかになっていきました。食事支援、物資支援、写真洗浄、避難所運営サポート、支援団体間調整・連携サポート、ボランティアのコーディネート……。包括的に様々な支援を行ってきたPBVが持つノウハウの数々を、「誰でも行える仕組み」としてアウトプットできるようにするにはどうしたらよいか、難題です。

新人スタッフが抱える課題を考える

そこで、とりわけ重要度の高い課題意識として、情報共有の方法に注目が集まりました。現場では、被災地の住民さんのニーズに沿った支援を行うためには、PBVスタッフ間や災害ボランティア達の円滑な協働と、地元の行政・社協・地域組織、他の外部支援団体との活発な連携が不可欠です。それぞれの文化や考え方に配慮しながら、支援活動の進め方や具体的な方法などをきちんと伝え、意思疎通をしていく必要があります。そのため、情報を共有する公な会議や内部のミーティングも連日のように続きます。ともすれば、慣れない地で模索しながら頑張る中で、それらの情報を残しまとめるのは大変です。日中は現場を駆け回り、その後、報告書や議事録を作成し終えたときには、夜中を回ってしまうこともあります。

PBVの知見や課題解決ノウハウがつまったこうした文書データを、現場の負担を減らしながら効率よく収集し、かつ次世代の支援の担い手が学びのために有効活用できる資料にしていきたい。Design Thinkingでじっくり課題と理想像に向き合うことによって、PBVが抱える課題が具体的になっていきました。

被災地での支援活動の流れや課題を書き出しながら、「誰でも行える仕組み」づくりの足掛かりを探る

 

業務のスマート化とノウハウの蓄積・整理という2つの軸が、課題解決の要素としてクリアになってきた中で、IBMが開発と運用を行っているITサービスをいくつかご紹介いただくことができました。規模の大きい企業をはじめ、高度な専門性をもった技術開発組織などを相手に、多くサービスを提供してきたIBMの皆さんの知見は、とても参考になりました。新人へのレクチャーやフォロー、ベテランの「匠の技」の継承など、すでにそうした課題にITを活用して取り組んだ複数の事例を学びました。

限りある人材や時間を、よりニーズのある必要な所に届けたい。支援者の体調や心のケアを大切にしながら、効果的な支援を持続的に届けられるようにしたい。現場で気を付けたことや良い取り組みを、他の支援現場でもみんなが活かせられるようにしたい。

「人こそが人を支援できるということ」を大切にしながら、日々技術が進化しているITサービスを上手に活用することで、限りある人手や時間が、よりよい支援に繋がっていく希望を感じました。

 

2020年7月豪雨災害をうけて熊本県球磨村での避難所運営支援(同年10月末に閉所)

今回の日本IBMのプロボノチームの皆さんによるコンサルティング支援を頂けたことは、企業と民間団体との連携の一つの理想的なモデルケースとなったと感じています。異業種間だからこそ気づきもあり、お互いに学び合えることもできました。なかなか被災した現場に直接行くことができなくても、他の人が持っていない専門的なスキルなどで支援できることがあります。

半年という長い期間、親身に丁寧に寄り添っていただきながら課題整理ができた今回のプロジェクトは、とても良い経験となりました。

 

誰しもが、自然災害に遭遇する可能性がある今日。

これからも、多様な専門性をもった企業や団体との繋がりも大切にしながら、人々が互いに助け合える社会を目指して、より多くの「お互いさま」の輪を広げていきたいです。