「保養」「国際交流」「音楽」をテーマに、福島の高校生たちを応援してきた「福島×ベネズエラ×ロサンゼルス音楽交流プログラム」が終了しました。
8月18日に東京・津田ホールで行われた帰国コンサートの後も、福島の高校生たちは地元福島テレビの番組にスタジオ出演し、旅の成果を広く福島の 方々に報告しました。また、来日したベネズエラ「エルシステマ」の若き音楽家たちは静岡や明治学院大学でも素晴らしい演奏を披露、22日に成田を経ち、無 事ベネズエラに帰国しました。
今回のプロジェクトは、本当に多くの皆さんに支えられて実現することができました。ブログをご覧いただくと、出発前とプロジェクト終了後で子どもた ちの顔つきがひと回り逞しくなったように感じます。東日本大震災や福島の人々への関心が薄れつつある逆風の中ではありますが、ピースボートとしては、これ からも福島への、そして子どもたちへの支援を続けていきたいと考えています。今後とも、ご支援・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
立ち上げから旅のアレンジと通訳、帰国後のコンサートに至るまで、プロジェクトの中心として同行したスタッフの松村からの報告をもって、ひとまず皆様に御礼申し上げます。
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たくさんの出会い、音楽を通じてつながる日々 ~旅の終わりに
7月31日、一行は晴れやかなロサンゼルスに降り立ちました。ロサンゼルス版「エルシステマ」であるYOLA(LAユース・オーケストラ)、 EXPO(高校生オーケストラ)との交流、そしてディズニーコンサートホールの訪問。メキシコ系および韓国系移民の子どもたちの前で演奏し、音楽を教え、 オーケストラの全体練習に参加し、現地高校生と共同のリサイタルにも出演しました。
8月2日、陸路メキシコのエンセナーダへ。大きな国旗がはためくエンセナーダ港に停泊するピースボート”オーシャン・ドリーム号”。乗船すると間も なく、メキシコのベニン・アカデミー楽団との合同コンサートが行われました。練習してきた5曲を披露し、メキシコの若者たちによる演奏を楽しみました。メ キシコ側指揮者による、「震災が起こったとき、メキシコのみんなが心を痛めた。この曲を福島から来たみなさんに送ります」という言葉に、心を打たれまし た。
船出を迎え、船酔いを体験しつつも、船の生活に慣れるのに時間は要しませんでした。ベネズエラから合流した8人ともうちとけ合い、スペイン語習得の 成果も見せました。約900名の一般参加者は、彼らの存在を暖かく見守り、船内で行われるさまざまな企画を共有しました。8月6日はヒロシマ、9日はナガ サキを振り返る船上式典に出席し、犠牲者に曲を捧げ、黙祷しました。
「原発事故:あなたなら避難しますか?」という、福島からの乗船者の方が開いた開催された洋上企画にも参加、グループに分かれて意見を交換しまし た。大好きな友達や家族と離れることを拒み、小さい頃から親しんだ大地を捨てず、それぞれの理由で福島に住み続けることを決めたと発言した高校生たち。ま だ10代の子たちが「自分たちより小さい子たちが避難すべき」と言ったコメントには複雑さが見え隠れし、「私たちが身をもって放射能の影響を見せる」とい う言葉に周りが絶句した場面もありました。
8月15日、船旅最後のメモリアルコンサートでは、2週間一緒に練習した成果を発揮し、すばらしい演奏を披露しました。15名の若々しい演奏は、 500席の船内のホールを満席にし、大きな感動を生みました。遠く離れた2つの国の音楽の融合は、言葉では表現できない美しいエネルギーに満ちていまし た。
いま、それぞれが家族のもとに戻り、船旅前と同じ生活を再開しています。福島から参加した大波さくらちゃん(トロンボーン/16歳)は、「最初はラ テンの勢いに圧倒されたけど、最後には最高の友達になった。高校卒業したら、絶対に会いにいくからね」と、新しい目標を掲げています。
ベネズエラから参加したマリアナさん(チェロ/19歳)はコメントします。「確信したのは、音楽は言葉の壁を越え、私たちは分かり合えることができ たということ。日本のみんなはすぐには意見を口にしないけれど、抱擁したり、ほっぺにキスしたりして喜びや寂しさを表現するという私たちの習慣にすぐ馴染 んだみたい」。ヘススくん(バイオリン/16歳)は、「震災後の福島について学んだ。今回交流したみんな、そして同世代の友達が、音楽によって気持ちを表 現し、新しい道を開き、いつかまた一緒に演奏できることを心から祈っているよ」と。
加藤登紀子さん、鎌田實さん、NTT東日本東京吹奏楽団の皆さんにもご協力いただいて行った8月18日の帰国コンサートには、福島から高校生のご家 族の方々もいらっしゃいました。また、原発事故以来、福島から避難して暮らす方々もご招待しました。彼らが一所懸命、そして言葉の壁を越えて楽しそうに競 演する姿は、お越しいただいた一人ひとりに大きな勇気と感動を与えてくれたと信じています。
このプロジェクトを理解し、ご賛同、ご支援、ご協力いただいたみなさまに心から感謝申し上げます。ピースボートでは、今後も福島の子どもたちへの支援を行っていきます。引き続きご支援くださいますようお願い申し上げます。
ピースボート「福島子どもプロジェクト」
松村真澄
photo by Kazushi Kataoka