『イシノマキにいた時間』 福島カツシゲさんインタビュー(中編)

Q:
舞台『イシノマキにいた時間』の話に戻って質問です。出演者のお二人と共演するまでのことを教えてください。

 

 

A:
ヨッさん(石倉良信さん)もタブチくん(田口智也さん)も役者仲間で、実は、ヨッさんは僕より早く一度石巻に足を運んでました。その時は、越路姉妹というアーティストと一緒に石巻に来て、越路姉妹は歌うことで、石巻の人たちに喜んでもらってたのに、自分は、持っていった物資を大きな声出して配るぐらいしかできなくて「役者って無力だなって感じた」と言ってましたね。

6月になって改めて石巻に1週間ほど来てくれて、今度はがっつりボランティアやってもらった。それから、東京でのボランティアトークイベントに出てもらった流れから、マンパワーとして活動する以外の「伝える」活動として芝居をやる事に決めた時に一番に声をかけました。一番ヒマそうやったので。(笑)今は、役者もまんざら無力ではないって思ってると思いますよ。


石倉良信さん(ヨッさん) 『イシノマキにいた時間』より。

 

Q:
田口くんとは?

A:
タブチくんが石巻に来たのは、ヨッさんよりちょっと後で、週末を利用したりで、何回もボランティアに参加してくれてます。ピースボートが、女川で仮設住宅への生活物資の運び入れをしてる時に、地元の人や同じボランティアからいじられてるのを見て、「やっぱり愛されるキャラやなぁ」と思ってました。

で、ヨッさんと『イシノマキにいた時間』を、下北沢で初めて上演した時に観に来てくれてた。(初演は2人芝居)その後、タブチくんにもお願いして、あ、次にヒマそうやったから。(笑)


田口智也くん(タブチくん) 『イシノマキにいた時間』より。

 

この芝居は、3人それぞれのボランティアのカタチを伝える舞台で、“いつまでも現地から離れられずに長期で残るボランティア”、”東京に帰ったりもしたけど、やっぱり石巻に戻って来てしまってたボランティア”、“フリーターだったので何度かボランティアに来て、その後、就職したボランティア”。どのボランティアが正解で、誰が間違ってるというわけではなく、すべて正解なんじゃないかと思ってます。


様々な背景を持つボランティアとの時間を過ごした(2011年7月、石巻専修大学)

 

Q:
田口くんが、地元で体験談を語る若者役になるなど、それぞれの役にはモデルがいるんですか?

A:
3人の登場人物が完全にこの人!ってわけじゃなく、何人ものボランティアがモデルです。タブチくんのその場面は、長期ボランティアのヒロヤ君が実際に体験したエピソードがモデル。石巻の人もボランティアも、被災地と被災地外でのリアルな人間模様を描くために、舞台のセリフはフィクションじゃなくて、実際に耳にした言葉を組み合わせて作ってます。


『イシノマキにいた時間』より。(6月29日、石巻市の東浜小学校)

 

Q:
そこに、ピアノの吉俣良さんが加わった。

A:
いやぁ、これは大きい助っ人でしたね。吉俣さんは、『篤姫』と『Dr.コトー診療所』『冷静と情熱のあいだ』など、数えきれない映画やテレビのサントラを手掛ける音楽家で、最近はオフ・ブロードウェイ公演もやってます。岸谷五朗さんや寺脇康文さんの「地球ゴージャス」というユニットに参加させてもらってから、ずっとお世話になってます。

 

でも、震災以降は俺がずっと石巻にいるので、飲みのお誘いも断るばっかりになってて、夏に仙台でのチャリティーコンサートをする前に石巻に寄ってくれたんです。その時、南浜とか津波で根こそぎ持っていかれた全壊地域や、ボランティアの活動場所を案内しました。次の日のコンサートでは、ピアノを弾きながらその景色が瞼に焼き付いて、涙が止まらなかったそうです。

その後も、鹿児島で行ったチャリティーコンサートでは「石巻で支援活動を続ける僕の友人に託します」って、20万以上活動資金を預かりました。

 

Q:
そういう温かい応援には、本当に励まされますよね。

A:
たまにボランティアの拠点に肉も送ってくれるし。ただ、吉俣さんが「自分もボランティアに行く!」と言ってくれて、気持ちは嬉しかったけど、ピアノ弾く人に怪我でもされたらねぇ、責任も持てないし、その時は「吉俣さんにしかできないことをやって下さい」ってお願いしました。そしたら、すぐに肉が送られてきて(笑)

その後、3月に『イシノマキにいた時間』の舞台を観に来てくれました。舞台の最後にスライドを流す場面があるんですが、「俺が曲を書くよ」と本当に1曲作ってくれました。「タイトルは?」と聞いたら「お前が決めろ」と言われて、困ったのは困ったんですけど、曲を聞いてたら、隣で寄り添って、歩いてる風景が見えてきて、「添歩み(そゆみ)」というタイトルを付けさせてもらいました。石巻公演でも、舞台の最後に吉俣さん自身が弾いてくれて、お客さんもでしょうけど、俺が一番感動したもん。

 


石巻公演の音響PAを担当した馬野(馬さん)は、ピースボートのなんでも職人。

 

Q:
石巻の人、ボランティア、石倉さん、田口くん、吉俣さん、そしてカツシゲさん自身。色んな人の想いが“てんでんこ”詰まった芝居なんですね。

A:
次は、吉俣さんの出身の鹿児島公演だし、長いことお世話になった富良野での公演もあるし。今年は「1人でも多くの人に伝えなさい」という、伝え神のお告げかな(笑)

 


東浜小学校の公演後。プレゼントされたのは寄せ書きの書かれたTシャツ。

 

(後編につづく)

 

photo:Yoshinori Ueno, Shoichi Suzuki