「一日の作業が終わった帰りのバスで、泥だらけになってくったくたになって疲れた顔を見るでしょ。そしたら、次の日の朝は気合を入れてやるんですよ。『みなさん、おはようございます今日も一日頑張ってね』って。そしたらね、みんなぱっと顔が明るくなって、『うん、頑張ってくる』って言ってくれるんだよ」
ボランティアを乗せるバスドライバーの萬代好伸さんは、ボランティアたちの人気者です。
そんな萬代さんも、このドライバーの仕事を紹介されるまで、石巻にボランティアが来ていることは聞いていたものの、「ふーん、みんなどこに泊まってるんだろう」という程度の認識しかなかったと言います。
しかし、仕事の都合で初めてボランティアの拠点となっていた石巻専修大学に来たときのことでした。ボランティアスタッフたちが乗ってきた他県ナンバーの車が駐車場にずらりと並んでいる光景がまず目に入りました。そして、芝生いっぱいにひしめくテントの列・・・。
「こんなに沢山、全国から石巻に集まって来てくれてるのか・・・」
萬代さんは、涙ながらにその風景を眺めていました。
「震えが来たねぇ。自分の町のために、こんなに人が集まってくれているなんて。ただただ、嬉しかったよ。市の災害復興支援協議会※後日紹介予定に聞いたら、『ただ来てるだけじゃないぞ、食料だって持参だし、酒も飲めないってわかってて皆自腹で来てるんだ』って言うんだ。だからつい『俺もボランティアで働きます』と言ったら、『あんたは被災して仕事失ってるんだから、ちゃんと給料もらわないとだめだよ』って怒られちゃったよアハハ!!」
萬代さんはそう言って笑いました。
彼は石巻災害復興支援協議会の運転業務の契約を得て、ボランティアたちと関わるようになりました。一緒に仕事をするようになって、ボランティアの力に圧倒されたと言います。
「大勢の力があれば、重機ができないような仕事もできるんだなー。地元の人たちもみんなびっくりしてるよ」
朝と夕方の送迎の間は、仕事の空き時間になります。そんなときは、自転車を借りて泥かき部隊を励ましに行ったり、洗い場に行って「ごくろうさん、今日はどうだった」と声をかけていきます。萬代さん流の積極的なコミュニケーション術が、人気の秘訣です。
「ただの冷やかしで来るようなやつらは居ない。顔見たら分かるよ。みんな、ちょっとでも役に立てることあれば何でもやる、って顔してる。ほんとにありがたいよね。だからこそ、ボランティアに来てよかった、と言ってもらえるように俺は積極的に話しかけてるの。そしたらみんなも、会えば『萬ちゃん』って手を振ってくれるし、『萬ちゃん、話し聞かせて』って声かけてくれるんだよ」
萬代さんは、ボランティアに少しでも多く被災状況を見てもらって、彼らから津波の怖さを伝えていってほしいと考えています。そのため機会さえあれば、自分の被災体験を伝えています。
「いつの間にか、伝えることがお役目になってしまってたんだな」
とちょっと困ったように、笑いながら話します。
仕事が終わった夜に、萬代さんを囲んで話を聞く「ばんちゃんナイト」なる企画もボランティアの間で自然発生するようになりました。
「石巻に来て、ただ泥かきしただけでは帰さねーよ津波の怖さを、みんなに伝えてもらわねーと俺の話しを聞いたら『萬ちゃんの思い、必ず伝えるから』って、みんなそう言ってくれるよ。みんなから励まされて、自分が今すべきことは何かって考えると、やっぱりいま目の前にいる人たちに、自分の体験を生で伝えることなんだよね」
萬代さんは明るい声でそう言います。
誰もが、何かをしたい、いてもたってもいられないという思いで被災地にやってきています。その一方で、自分がやっていることは本当にこれでいいのだろうか、被災地の人たちに自分たちがやっていることはどう思われてるんだろうかという不安を抱えるボランティアもいます。そんなボランティアから、「萬代さんの話を聞いて、もやもやが吹っ飛びました。ここに来て良かったです」と言われたこともあります。
ボランティアたちにとって、萬代さんは地元の人の代弁者であり、気兼ねなく相談できる、かけがえのない存在になっていました。
ボランティアを乗せたバスで壊滅状態の女川を通ったときのことです。一面に続く瓦礫原の惨状を見て、ボランティアたちは呆然と言葉を失っていました。萬代さんは運転を止めて、女川の状況を説明しました。そこに、一人の地元のおじさんが近づいてきて、バスに向かって何かを言いいました。でも訛りが強く、ボランティアは何と言われたか聞き取れません。強い語調に、被災地を見に来たことを怒られたのかと思いました。
萬代さんは、そのおじさんが言ったことを通訳しました。
「おい、見ててくれよ、今はこんな状態だけど、絶対立ち直ってやっから。そしたら、みんな、また復興した女川を見に来いよ」
ボランティアのみんなは、大きく頷きました。
インタビューの最中にも、萬代さんの携帯電話が鳴っていました。その日に東京に帰ったボランティアスタッフから「東京に無事着いたよ」との報告です。萬代さんにお礼の寄せ書きを書いて渡していく人たちもいます。
「また必ず来ます」
ほとんどのボランティアが石巻を去る前に、萬代さんにそう言ってくれるといいます。
「それ聞くと、ぐっとくるよね。泣けてくる。感無量だなぁ。俺もね、『戻って来いよ、復興した石巻を見に来いよ』って言うんだよ」
萬代さんから話を聞いたボランティアスタッフたちは、それぞれの家に帰ったあと、津波の怖さを伝えていることでしょう。ボランティアたちに語り継がれる「萬ちゃんナイト」は、きっと今日もどこかで開催されているはずです。
現在、萬代さんは、災害復興のための別の運転業務で活躍をされています