ボランティアの身を守る仕組み (後半)

東京で、説明会やボランティアの派遣に関して担当する向坂英明は、約300人が集まった第1回の説明会をこう振り返ります。

「東北のためにとにかく何かしたい!という気持ちで、老若男女たくさんの方が集まってくれました。けれど、現場の受け入れ体制も作り始めたばかりで、一切ボランティアのための水や食料の現地調達はできず、寒さや余震が続く中での活動。もちろん説明会の2日後までに、荷物や日程の調整ができる人という物理的な条件もありましたが、まずは精神的にも肉体的にもタフな20代30代のメンバーを選ばせてもらいました。」

 

当時は、まだ情報が数時間ごとに変化し、社会福祉協議会/災害ボランティアセンターが県外からの個人ボランティアの受け入れを始めていない状況。ボランティアの動きも非常に流動的でした。また、悲惨な現場を目の当たりにする可能性も強く、ただでさえ肉体労働で疲れた身体を休める場所も、寒さの厳しい屋外でのテント生活でした。

いち早く一般ボランティアの派遣を決定したからこそ、ピースボートのボランティアから怪我や病気が発生すると、それは被災地全体へのボランティアの動きを鈍らせてしまうことにつながると認識していました。

そこでピースボートでは、ボランティア派遣に関して、以下のようなルールを設けました。

・ボランティア希望者は、必ず事前の説明会に参加し、現地のイメージと心構えを確認すること
・活動期間は原則1週間。それ以上は、一度地元へ戻り、リフレッシュして再応募する。もしくは、現地スタッフと相談の上、延長の可否を確認すること
・説明会の中で、5,6人1チームを作り、出発までの準備を協力して行うこと
・チームリーダーが代表して、本部やメンバーとの連絡・情報の伝達を行うこと
・ボランティア保険に加入すること

精神的にも肉体的にもタフな人でも、1週間以上の被災地活動を続けると現場に入り込んでしまい緊張状態が慢性化しがちです。その状態でキツイ作業を続けていれば、誰だって集中力と客観性を欠き、怪我をしやすくなります。

万が一の対応のための保険は当然ですが、事前に知り合ったメンバーで事前にチームを作ることで、現場でも毎日お互いがチェックし合い、疲れや悩みを溜め込まないように予防することができます。

滞在と活動延長を希望する場合も、ボランティアコーディネーターやAD(アシスタント・ディレクター)らが体力面などの総合判断を行った上で決めるようにしています。

また、震災以降も宮城県沖で余震が起こり、何度かは津波注意報も出ました。そういった場合は、現地で活動を指揮するボランティアコーディネーターやADから、一時避難の指示が出ます。連絡系統がしっかりしていなければ、避難場所やルートはおろかメンバーの人数把握にすら手間取ります。

チームリーダーを本部との連絡の窓口にするのは、効率的な活動のためでもありますが、メンバー全員が無事に作業と現場生活を送るための仕組みでもあります。

 

これらの仕組みに加えて、4月から強化してきたのが説明会での「セイフティ(安全)レクチャー」の実施。

災害現場での救急救命の経験を持つ外部の専門家にも協力を仰ぎ、全チームに救急キットを配布するところから始まり、チームリーダーへの、そして数ヶ月前からはボランティア全員へのファーストエイド(救急救命)研修、作業や生活面での安全確保のポイントレクチャーを組み込むようになりました。

 

以下は、そのレクチャーで行っている例のひとつ。

さて、これのどこを注意しなければいけないでしょう?

 

答えは、消火器の場所。
火災が起こった際、目立つ場所で、すぐに取り出して使えるところに設置していないと意味がありません。

 

もう一問。
建物の泥かき作業の休憩中。どこに危険が潜んでいるでしょう?

 

写真のサイズで見づらいかもしれませんが、座っているすぐ後ろの建物には、揺れの影響から亀裂(ヒビ)が入っています。もろくなっているため、余震が起こると頭上の看板が落ちてきやすいポイントです。休憩する場合も、こういった周りをよく観察してから、場所を決める必要があります。

 

こういった注意事項は、作業別にそれぞれポイントがあり、それらをまとめ、怪我をした時の応急処置や対応方法=ファーストエイドの項目を追加したものが、こちらの冊子。

 

ボランティア希望者には、このセイフティレクチャーを含めた約3時間半の説明を受けた上で、最終的な参加の意志を決めてもらっています。こうした説明会の実施は、すでに全国6地域で50回以上を数えます。

 

「ボランティアは、自己責任で自己完結」はもちろん原則ですが、そのためには最低限の情報と知識が必要です。ボランティアが怪我や病気になれば、それこそ現地に迷惑をかけることにもなってしまいます。特に大規模なボランティア派遣を行うからこそ、こういった事前トレーニングにより、一人ひとりが自分の身を守るとともに、周囲のメンバーの安全にも気を配るよう意識付けを行うことが大切にしています。

 

photo:Yoshinori Ueno, Mitsutoshi Nakamura,Jon Mitchell