津波防災の日に考える「自分で判断する力を養うこと」

11月5日は「津波防災の日」

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、地震後の津波によって東北地方の太平洋沿岸部で、多くの人の命が奪われ、行方不明になったままの方もいらっしゃいます。この震災を受けて、2011年6月に「津波対策の推進に関する法律」が制定され、津波から国民の命を守るために、「津波防災の日」が出来ました。11月5日になった理由は、、1854年に中部地方から九州地方の太平洋沿岸に大きな津波被害をもたらし、「稲むらの火」のモデルにもなった安政南海地震の発生した日に因んだそうです。2015年には国連でも「世界津波の日」として採択されました。

 

 

 

1995年の国勢調査では、日本人口の80%が標高0~100mの場所で生活しており、東京や大阪などの都市は、川の水面よりも低地で生活をしています(参照:一般社団法人国土技術研究センター)。地震の影響で津波が発生した場合、たとえ沿岸部に住んでいなくても、その被害に遇う可能性は高いのです。ですが、教育機関で行われる防災訓練は、地震対策が主で、津波に対しての避難が不十分な地域もあるようです。本当に発災したときに自分の判断でどこに逃げればよいのか、きちんと把握している人は少ないかもしれません。「自分の判断」を養うためにはどうしたらいいのか、模索しながら実践している団体があります。

 

神奈川県逗子市にある一般社団法人「そっか」です。
そっかは、「みんなの子どもをみんなで育て、足下の自然の中で育ちあいたい」というごく当たり前な想いから、2009年に一番最初の「黒門とびうおクラブ」というプロジェクトをスタートしました。
都市部に暮らす子どもたちは、さまざまな制限を受けながら日々生活をしています。公園ではどんどん遊具の数が減り、ボール遊びをしてはいけない、大きな声を出してはいけないなど、子どもらしくあれる場所が少なくなってきています。家でゲームをしたり、SNSなどで遊ぶことも増え、目に見える繋がりが減っています。でも、本来、人の営みは自然の上でしか成り立ちません。自然がもっと人とともにあった時代は、自然は子どもの遊び場でもありました。自然とのつながりが薄れている今だからこそ、子どもたちと自然の中で思いっきり遊ぶことによって、再び自然との絆が取り戻せるのではないかと考え、日々子どもと大人が自然の中で全力で遊んでいます。

 

 

 

海も山もある逗子市では、市内のどこに住んでいても簡単に自然に触れることができます。小学校の地図学習では、人工建造物の位置を教わりますが、そっかの子どもたちは逗子の海と山を誰よりも知っています。海と山を遊び場とすることによって、そのいいところと危険なところを学び、それを「せいめいちいき地図」として逗子の地図を作っています。また、 逗子市と協力して、「海辺の安全ガイド」を作成し、逗子市内全ての小中学校に配布しました。注意が必要な箇所を伝えるだけでなく、子どもたちが楽しめるように工夫を施した地図となっています。

 

日々、海や山と遊んでいる子どもたちは、その遊びの中で、自分で判断する力を養っています。その力こそが有事の時に役に立ちます。逗子は地震が発生すると約10分後に津波がくるとされていますが、子どもたちは地震が発生した直後に、どのルートを使って逃げればいいのかを遊びの中に学び、身に着けています。小学校1年生の子どもたちでも、自分たちの足で10分以内に津波の届かない建物などに逃げることができます。また、逗子海岸の近くにどんな橋があるか、その橋が崩れていたらどうするか、山に逃げるときにルートは何があるのかなど、大人が防災訓練をしたわけではありませんが、海と森で遊び抜く中で、子どもたちは自然と、判断をすることができるようになっていくのです。

 

そっかと関りを持っている子どもは保育園児から高校生まで、現在約200人。逗子の地形のことを知っている彼らなら、災害が起こったときに率先して動き、中高生になれば周りの人たちをも助けられる存在になるかもしれないと、彼らのことを信頼しているそっかのスタッフは仰っていました。彼らの想いや、行動が、他の子どもや大人たちに波紋のように広がることよって、防災の意識もいつの間にか浸透し、大切な人を守れる町になっていくのかもしれません。

 

 

 

消費社会が進む中で、どうしても「生産者(提供する人)」と「消費者(提供される人)」という感覚が増大しつつあります。受身的に提供してもらえる感覚が強くなればなるほど、何か想像もしていなかったことが起きた時に、誰かの責任にしてしまいがちです。一方的に提供する人とされる人の関係では、子どもたちも自分で考え判断する機会を逃してしまいます。暮らしを消費するのではなく、双方向の繋がりを取り戻るために、そっかの皆さんは自分たちからコミュニティづくりを行ってきました。「自分の子ども」から「自分たちの子ども」に主語を変えて、町で子どもを育て、将来子どもたちは町に繋がりを還元してくれると思います。

 

PBVではそっかと一緒に今年の3月に「わたしたちの津波対応ワークショップ」を作成しました。そっかの子どもたちのように、自分が住んでいる町で津波が発生したときに、実際に自分たちで判断して逃げられるように、授業だけなく、町を歩いたり、子どもたち同士で相談しながら避難するビルを考えます。本来であれば、逗子市内の小学校で実施する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で延期となってしまいました。コロナが落ち着いたのち、逗子市内での実施を予定しています。

 

  

 

防災や減災のことを大人が子どもに教えることはできますが、子ども自身が判断できるかどうかは、彼ら自身の力です。その判断力が幼いころから身につけることができるそっかのコミュニティは、他の地域のロールモデルにもなりうるのではないかと思います。子どもたちを信じているそっかと、今後も連携を取りながらPBVでもできることを考えていきます。

 

 

写真:上山葉(一般社団法人足下)