8月21日に横浜港を出航した、第88回ピースボート「地球一周の船旅」では、シンガポールへ寄港するまでの区間、災害に強いアジアに向けた人材育成プログラムを行いました。2年前、巨大台風に見舞われたフィリピン・セブ島への復興支援を兼ねたクルーズ初寄港の様子も含めてレポートします。
●災害がつないだ日本とフィリピンの絆
2013年11月8日、9日にフィリピン中部を襲った台風30号(国際名:ハイエン/アジア名:ヨランダ)は、死者・行方不明者6,000人を越える甚大な被害をもたらしました。当時、東部レイテ島、サマール島などの高潮被害が大きく報道されましたが、中部セブ島でも竜巻レベルの暴風による被害が発生していました。
フィリピンは、日本と並び、毎年たくさんの台風が通過するアジアの災害大国のひとつ。PBV設立前の2009年は、首都マニラにも大きな被害が発生し、ピースボートでも現地NGOを通じて、子どもたちへの物資提供や女性の自立支援を応援しました。その時にも実感したのは、「災害の発生は平等でも、被害は貧困地域や災害弱者に集中する」ということ。
2009年マニラ。貧困地区ではほとんどの家屋が倒壊したが、川を隔てた高層ビル群エリアは無事だった。
東日本大震災から約1ヶ月後の2011年4月13日、第72回ピースボート「地球一周の船旅」がマニラを訪問しました。この時、東北被災地を応援したいと、たくさんの市民が想い想いの物資を持ってピースボートの船に集まってくれました。また、上記の2009年台風被害を受けた貧困地区でも募金が行なわれ、その後PBVの石巻市での災害支援に活かされました。
そして、2013年のフィリピン台風。今度は、石巻市民によるフィリピンへの街頭募金が行なわれ、セブ島やビリラン島でのPBVの災害支援活動に使わせていただきました。お互いに、災害を経験した者だからこその恩返しだったのかもしれません。
●2年ぶりのセブ島へ
フィリピンは、世界第2位の島の数を誇る国。その数は、約7,000にも上ります。セブ島は、きれいなビーチやシュノーケルなどで人気のリゾート地です。最近は、英語を学ぶ留学先としても多くの日本人が訪れているようです。
2年前のフィリピン台風は、セブ島北部への暴風被害をもたらしたとともに、外部支援の中継地点かつレイテ島やサマール島から避難してくる住民の受け入れ先でもありました。セブ島で行なったPBVの災害支援については、当時のブログをご覧ください(コチラ)。
ピースボートクルーズでは、訪問する寄港地ごとに複数の「オプショナルツアー」を準備し、乗船者は自由行動、もしくはそれぞれ希望する観光ツアーや交流ツアーに分かれて行動します。今回、そのオプショナルツアーのひとつが「災害と貧困への取り組みを学ぶ」というもの。約20名の乗船者とともに、セブ島中部のマンダウエ市カンドゥマン町(バランガイ)を訪れました。
ここは、観光ガイドブックにもまったく載っていない町。ピースボートにとっても、現地パートナーNGO「Options」とのネットワークがなければ、知ることもなかった町だったでしょう。また、カンドゥマン町の住民や子どもたちも、外国人グループがやってくるのは初めての経験。一緒に写真を撮ったり、歌やダンス、折り紙などの交流を通して、徐々に仲良くなっていきます。
町長や町内会の防災担当者からは、台風や洪水に対してどういった対策をしているのかについても話を聞くことができました。
これは、セブ州がUNISDR(国連国際防災戦略事務局)が提唱する「災害に強い都市(レジリエント・シティ)の構築」キャンペーンに参加していることから、地域防災に積極的に取り組みを始めたことを表しています。この国連のキャンペーン自体が、2005年に兵庫・神戸で行なわれた「第2回国連防災世界会議」が生んだひとつの成果。PBVも、今年3月の仙台での「第3回国連防災世界会議」には、日本のNGOとして中心的に関わりましたが、何年もかけて国連レベル、国レベル、都市や地域レベルと足元の実践に活用されていく現場を実感することができました。
町内の一角は、災害や開発による被災者・被害者が生活する復興住宅(家賃が必要ない部分は、日本で言う仮設住宅に近い扱いではありますが)が並ぶモデル地区。世界銀行や神戸市からの支援もあって、生活再建や自律支援のための施設も作られていました。
子どもたちもたくさん集まってくれたので、ピースボートからも、日本で集め、船で運んだ衣類や文具などの支援物資を渡してきました。
2年前は災害直後の緊急支援ということもあり、ほとんどセブ島の日常を感じることはできませんでした。久しぶりの訪問となった今回は、観光客として訪れるセブとも一味違う、そこに暮らす市民の目線で、フィリピンの日常的な課題である災害や貧困を克服する地域防災の取り組みを知ることができた1日でした。
次回のレポートでは、UNISDRと共同で行なったアジア防災ユーストレーニングや、クルーズ洋上での人材育成プログラムについて報告します。