福島子どもプロジェクト 同行スタッフ インタビュー

7月23日(土)~8月4日(木)までの13日間、南相馬市の中学生49名が、ピースボートの船でベトナム、シンガポール、スリランカを巡った「福島子どもプロジェクト」。子どもたちは、大海原の船上や寄港地で思いっ切り身体を動かし、初めての海外旅行と国際交流でひとまわり大きく成長しました。プロジェクトに同行してくれた安原はづきさんに、その舞台裏と終わってみての感想をインタビューしました。

 

安原はづきさん(写真右)

 

「暗くなるまでサッカーをやっていたり、キャンプファイヤーで踊ったり、船でも寄港地でも、とにかく外でずっと遊んでる子が多かったですね。」
子どもが外で元気に遊ぶ姿は当たり前かもしれませんが、インタビューの冒頭、安原さんがわざわざそこを強調するには理由があります。


南相馬市は、原発事故により避難が必要な半径20kmを含む地域。震災による津波被害も合わさり、地元の方々はどう生活を続けるのか大きな決断を迫られていました。プロジェクトを計画した6月当時、約2,000人いた中学生は900人へと避難が続き、違う学校の生徒もみんなが鹿島中学に集まっての授業が行われていました。違う中学校の生徒は、授業の内容も教室も別々。同じ場所にいても、お互いに友達になるきっかけはあまりありません。また、体育の授業などは中止、登下校はマスクを着用、教室内の授業中も長袖のままです。

「『船で楽しみにしていることは?』という事前アンケートに、『プール!』と答えた子が一番多かったのも、南相馬の状況を聞くと納得しました」と安原さん。さらに、「一緒にサッカーをしていた友達も避難し、震災後次々と友達との別れを経験せざるを得ない月日を過ごしてきた子もいました。ベトナムでの子どもたち同士の大交流を終えて、見送りに来たベトナムの子たちとの別れに、南相馬での友達との別れを重ね合わせていた子もいました。一人ひとり事情は違いますが、船に乗るまでの4ヶ月余り、子どもたちを取り巻く環境の複雑さを改めて感じました」と。

安原さんが、このプロジェクトを知ったのは、6月後半のこと。
「震災以降、石巻市での緊急支援のお手伝いにも参加しましたが、ずっと福島のことが気になっていました。海外に行くことも多い生活なので、広島や長崎の原爆を味わった日本での原発事故に対する意見を考えさせられました。ヒロシマ、ナガサキ、フクシマと経験した、これからの日本は何をすべきなのか・・・。震災前は、富士山の麓で子どもたちのキャンプや修学旅行を受け入れる自然学校の仕事をしていたこともあって、私にも手伝えることがあればと思って参加させてもらいました。」

 

子どもたちの受け入れ経験があると言っても、それは日本でのこと。海外となれば、勝手は違います。
「時計を持ってないので遅刻はするし、喧嘩もするし、夜中も走り回って怒られるし。それからパスポートの意味を理解してくれないのも骨が折れました。その辺に置きっぱなしでトイレに行ったり、遊びに行ったり・・・。ちゃんと説明して『はーい』と言った矢先に、目の前に置きっ放しで行っちゃうんですから(笑)」
初の海外旅行に、テンションが最高潮の中学生49人が相手、なんとなく想像はつきますね。

 

それでも「やって良かった」と思うことの方が多かったようです。
「『外国人なのに日本人と似てたよ』『人が優しくて良かった』という率直な言葉は、日本から近いアジアの国々に対する偏見や距離を縮める国際交流になったと思うし、『知らない人と知り合うのって楽しいね』という感想からは、地元での別れを経験して人付き合いから遠ざかってしまいそうになっていた気持ちに前向きな出会いがあった、ってことだと思うんです。ベトナムやスリランカで厳しい生活に直面している子たちとも出会い、『彼らが頑張っているよう、自分も1日1日を大切に後悔しないように生きていきたいです』と語った子もいました。」

 

最後に「安原さんから見て、この13日間での子どもたちの変化は?」という質問に、こう答えてくれました。

「表情が変わりました。6つの中学校からの49人で学年も様々。何をやるにもまとまって行動できずバラバラ、初めはそんな印象がありました。同じ鹿島中学での授業でしたら、お互いに知り合いではなかったので仕方ないのかもしれません。でも、仲良くなって、お互いの名前を呼び合うようになった頃から少しずつ笑顔が増えました。ベトナムでの交流、老若男女での洋上大運動会、船の上での特別授業・・・短い時間だったかもしれませんが、本当に濃密な時間だったと思います。最後、スリランカを出航する船を見送る時、初めて一斉に『せーの』『ありがとう~!』って声が揃ったんです。その後もずっと見送っていて。震災後、辛い出来事を胸の奥に留めて辛抱してきた子たちですが、のびのびと好きなことをして世界を体験して友達がたくさんできた、そんな夏休みになってくれたんじゃないかな、と思っています。」

photo:Kazushi Kataoka