今日は、南米ベネズエラの青少年オーケストラ「エル・システマ」をご紹介。福島子どもプロジェクト2012・夏の「福島×ベネズエラ×ロサンゼルス 音楽交流プログラム」で、福島の高校生たちの交流相手になる楽団です。
日本で彼らの存在が知られるようになったのは2008年。指揮者グスターボ・ドゥダメル&「シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・カラカス」が初来日し、そのレベルの高さと踊りながら演奏するパフォーマンスは、テレビや雑誌、youtubeを通じて一躍有名になりました。
2008年12月東京芸術劇場でのコンサート・アンコール。(youtubeより)
ドゥダメルやシモン・ボリバル・オーケストラを輩出したベネズエラの「エル・システマ」への評価は、本当に世界的なもの。例えば、6月21日にはスコットランドのスターリング城前で野外コンサートでロンドン・オリンピックに向けた芸術祭「カルチュラル・オリンピアード」のオープニングを飾ったり、創設者のホセ・アントニオ・アブレウ博士は今年ノーベル平和賞にもノミネートされています。演奏だけではなく、子ども達の教育や社会的な意味合いも強く、「エル・システマ」の音楽教育システムは、いまや世界20ヶ国以上に広がっているそうです。
「エル・システマ」の始まりは、1975年。たった11人でした。ベネズエラは世界有数の産油国ですが、富は一部に偏り、半数以上が「バリオ」と呼ばれる貧困の暮らしの中にありました。圧倒的な貧富の格差という現実は、子どもたちに夢をあきらめさせ、犯罪に手を染めてしまう原因になっていました。
アブレウ博士は、そんな子どもたちをクラシック音楽で救おうと奔走します。クラシック音楽といってもソロではなく、オーケストラ。自分の興味や特性に合わせた楽器があり、みんなと揃えて演奏しなければ音楽にはなりません。子どもたちは、毎日の練習やコンサートを通じて協調性を学んでいきます。
メンバーを集めるため、演奏が上手な青年グループは、スラムや刑務所、ゴミの山に出かけていってコンサートを開きます。クラシックを知らない子たちにも興味を持ってもらうため、彼らはラテン音楽やベネズエラの伝統的な曲も積極的に演奏し、パフォーマンスにもエンターテインメント性を持たせるようになっていきました。
もちろん、レッスンは無料でも会場までのバス代が払えない子が多かったり、
最初から上手く行ったわけではありません。聴覚障害のある子たちには、手話でコーラスに参加してもらったり、楽器を持てない2歳などの小さい子には段ボールで手づくりしたバイオリンなどで擬似練習をさせたり。
彼らの音楽と社会活動は次第に人を惹きつけ、37年間経ったいま、国内約35万人という巨大青少年オーケストラメンバーを抱える国家プロジェクトになりました。メンバーからは一人の犯罪者も生んでいないそうです。上手くなれば将来プロとして指導者としての生活する選択肢もあれば、何よりも練習や仲間との時間が楽しすぎて犯罪に手を染める時間もないんだろうと思います。「エル・システマ」は、将来は100万人のオーケストラを目指しています。
アブレウ博士(中央)と。スタッフの松村真澄(左から2番目)は現在ベネズエラでプロジェクト準備中。
(後半につづく)
photo: Mitsutoshi Nakamura