【 津波防災の日 コラム 】  防災大国・キューバのこと

今日11月5日は、「津波防災の日」。東日本大震災を受けて、6月に成立した「津波対策推進法」で定められた日で、各地で避難訓練などが実施されています。

PBVでは「災害ボランティア・リーダートレーニング」を今日から開講。昨晩、東京・高田馬場を出発した第1期メンバーと現地合流者を含めた約20名が今朝ほど石巻市に到着し、プログラムがスタートしました。講師に、防災分野の専門家や救命・安全管理の専門家なども交え、災害の基礎知識、応急処置、炊き出しやキャンプなどの野外訓練、支援フェーズに合わせたケーススタディなど、7日間のカリキュラム。たくさんのリーダーを輩出することで、ボランティアの力を現場で機能させる人と人による防災・救援の実行力を高めていきたいと思います。

 

さて、「津波防災の日」にちなんで、今回は「防災大国」と呼ばれるキューバのことを少しご紹介します。(参考・引用:「『防災大国』キューバに世界が注目するわけ」中村八郎・吉田太郎著、築地書店)

 

突然ですが、イソップ童話「アリとキリギリス」は、キューバでは「アリとセミ」で伝わっているそうです。

冬になって食料がなくなったセミは食料を分けてもらうため、アリを訪ねると「私が汗水流して働いている時にあなたは何をしていたの」と意地悪く問いかけられました。
するとセミは「歌って皆を楽しませ、元気づけていたのよ」と答えます。
その答えに、それまで働くことしか知らなかったありは深く反省し、「そうか、これからは踊って暮らそう」とセミと食料を分かち合いながら、楽しく冬を過ごしたそうです。

 

よく年どうなったのか気になるところですが(笑)、音楽が好きでサルサが好きな底抜けに明るいキューバの人たちをよく表しているお話だと思います。そんなキューバですが、ひとたび自然災害が発生すると、その対応は素早く、目を見張るものがあります。

 

▼ ハリケーンで死傷者が出ない国

2008年、カテゴリー「3~5」という大型ハリケーンが立て続けにキューバを襲いました。死者の数は、3つを合わせてたった7人でした。

カテゴリー「3~5」というのは、2005年にアメリカ南部に上陸、1,800人以上の犠牲を出したハリケーン・カトリーナと同じ規模です。ハリケーンの通り道であるキューバは、毎年暴風と津波に匹敵するほどの高潮に襲われます。しかし、キューバでは災害情報の提供と住民避難、つまり科学技術の活用と市民参加を促すことで、高い防災力を持つ国になったと言われています。

驚くのは、ペットや家畜を飼っている世帯も安心して一緒に避難できるよう、避難所には獣医までが配置されるといった徹底ぶり。こういったキューバの防災対策は、国連開発計画や赤十字、さらには対立するアメリカの都市からもモデル事例として繰り返し評価されているそうです。

もちろん、事前予測できるハリケーンと、事前対応が不可能に近い地震では違いがありますが、津波発生までの対応や災害後の回復力までを含めた時、日本も学ぶべき取り組みは多いのだと思います。

 

▼ 国際災害救助医療隊

キューバでは、大規模災害が発生した際に、即座に現場へ派遣される救命・医療活動に当たる「ヘンリー・リーブ・ブリガーダ」という国際災害救助医療隊が組織されています。

この医療隊は、米国ハリケーン・カトリーナの際に被災者支援を目的に作られ、疫学や語学力に長けた医師や看護師がメンバー。日本でもNGOや赤十字の医師たちが、国際救援に向かうニュースを耳にしますが、数十名~数百名規模での派遣を行うその規模は圧倒的です。人口1,000人当たりの医師数が世界一という医療大国だからこそ、なのかもしれません。

2005年のパキスタン大地震で救援活動に当たったピースボートの代表・山本隆も、彼らの存在と活躍を現場で見ていますが、その存在感は圧倒的でした。

 

▼分散型自然エネルギー社会

アメリカの経済封鎖と、後ろ盾だったソ連の崩壊を受け、キューバの経済は大きなダメージを受けました。特に、輸入に頼っていた資源が届かなくなったことで、各産業は自給を迫られます。農薬なども手に入らなくなったことで有機農業が盛んになり、「有機農業先進国」と呼ばれるようになったことは有名になった話です。

エネルギー分野でも同じことが起こっています。開発を続けていた原子力発電や、稼働していた火力発電所も大停電などを経験した結果、キューバの選択肢は自分たちで管理できる小さな発電所を各地に設置する分散型のエネルギー社会。石油や石炭の輸入も難しかった状況でできることは、風力や太陽光など、自分の国にもある自然のエネルギーを利用することでした。

研究好きの国ですから、高技術発電に未練がないわけではないと思います。けれど、1990年以来およそ2万人のチェルノブイリ原発事故患者(主に子ども)を受け入れて、治療を続けている経験から自然エネルギーの大切さを学んできたのかもしれません。

 

その他、これらを実現するための防災教育の徹底など、まだまだ書くべきことはたくさんあるのですが、とりあえずこの辺りにしておきます。もっと詳しく知りたい方は、コチラを。

 

28年に渡って、国際交流の船旅を行ってきたピースボートでは、来年3月1日にカリブ海の国・キューバに寄港します。航海中の船の上でも「災害ボランティア・リーダートレーニング」を行い、防災の観点からの特別スタディーツアーも計画しています。今日のコラムは、その準備の事前勉強を兼ね、先日上記の著者である吉田太郎さんににお会いしたことがきっかけです。

もちろん、キューバは途上国で経済的には貧しいですし、政治体制に対する批判もあります。優れているものは積極的に取り入れて損はありません。自然災害を経験してきた世界の国々には、もっともっと役立つ取り組みがたくさんあるんだと思います。これからもひとつずつ学んでいきたいと思います。